人気ブログランキング | 話題のタグを見る


二胡の音に祈る夜
昨晩、背中と腰にシップを貼り腰痛ベルトをして、中国出身の胡弓奏者・楊興新さんの七夕コンサートに出掛けた。
楊さんは私が二胡を教えて頂いている先生のお師匠さん。
17年前に来日、日本人女性と運命の出会いをし、七夕に結婚。
しかし、その奥さまは僅か3年後にクモ膜下出血で倒れてしまう。
以来、右半身の麻痺と言語障害のリハビリに励む奥さまを励ますためにも、と楊さんの日本での積極的な音楽活動が始まった、と聞く。

'93年から数えて13回目となる、今年の七夕コンサート。
どうやら毎年永六輔さんと加藤登紀子さん、小室等さんがゲスト出演されているらしいのだけど、今年はスケジュールの都合で司会の?永さんは不在だった。
「私の日本語うまくないから、困ったね」と言う楊さんの言葉に反して、その朴訥とした、中国人らしさの残る日本語はどこまでも素直で温かく、私の心に響いた。



「父は反革命分子と言われ20年以上投獄されました」と淡々と語る楊さんは、今年50歳。
2歳の時から24年間、父親不在の暮らしを送ることを余儀なくされた。
長兄で現在は画家である楊興林氏の奏でる二胡曲「競馬」に感動して二胡を手にし、11歳でソリストとしてデビューしたという。
(楊興林氏と次兄・楊興雅氏の絵画は>>こちら)

しかし、その後文化大革命の始まりとともに父の罪のあおりを受け、胡弓演奏活動を止め農村へ下放されてしまう。
10年後の文革の終結から間もなく父の無実が証明されると、国立潘陽音楽大学に入学。
首席で卒業する。

文字にすればざっとこれだけだ。
でも、10年だ。24年だ。
今ここで丁寧に言葉を選びつつ穏やかに微笑んで話すこの人は、その間にいったいどれくらいの涙を流したのだろう。
鼻の奥がつーんとした。
隣の席の夫を見ると、彼もいつも悲しいときに見せる困ったような顔でじっとステージを見つめていた。


18時半に始まり21時に終了するまで、一瞬たりとも退屈に感じない素晴しいコンサートだった。
二胡の音ってここまで多彩なんだ!と口を開けて聴き呆けてしまう。
ときにカモメの鳴き声になり、しゃがれた鳥の声のようになり、ヴァイオリンのような音色になり、哀愁漂う二胡らしい調べになる。
荒れ狂う大海を、静かな星の瞬きを、晴れ渡った夏の空を、ただ1つの楽器で表現する。
まるで奇跡だ、と思った。
私じゃあ、あのカモメの鳴き声を出すだけでも3年は掛かるだろうな・・・。

ご存知のように、二胡には弦2本しかない。
ヴァイオリンより弦とネック(棹)が離れていて、ギターのようなフレットもなく弓も初めて手にした時「えっこんなんでいいの?」と驚いたくらいにたわんでいる。
おおまかに言えば(千金など細かい部品は別として)糸巻きと棹と弦と共鳴胴(ボディ)と弓だけの限りなくシンプルな構造。
それのどこから、いや、どうしたら、こんなにも情感溢れる心揺さぶる音が生まれるんだろう。

親日家の楊さんは、昨今の日中関係に触れながら後半のMCでこう言った。
「日本に来て17年。本当にいろんな人たちと出逢いました。縁だと思わずにいられません。皆さんに出逢えたこと、本当に感謝しています。ありがとう。今、皆さんをこのまま中国に持って(ワープするように連れて)行きたいです。そして、中国の人も日本に来させる。日本人と中国人、そうして一緒にいたらね、きっとすぐにみんな親戚になれる。」


コンサートが終わり、韓国料理のお店で夕食をとった。
留学生なのだろうか、日本語の上手な韓国人のお兄さんたちは私の下手な韓国語に顔をほころばせ、それはソウルの男友達の笑顔と重なった。
こんなふうに、異なる文化を持ったひとたちと関わるのが好きだ。
交わすのは二言三言でも、言葉だけじゃない、もの凄くあったかい優しいものが心の奥にすーっと流れ込んで、何だかウキウキわくわくする。


お国同士には難しいことがある。
だけど、ひとりずつが繋がって、友好関係を築くことはできると私は信じている。
日本、台湾、中国、韓国、アメリカ、イギリス、トルコ、その他どこの国籍の友達も、私にとって同じように掛替えなく、いつもたくさんのことを教えてくれ、たくさんのものを与えてくれる。
理想主義、理想論と笑われるかも知れない。
それでもやっぱり、七夕の夜、私は世界平和を祈った。


**
大きな感動と喜びを胸に帰宅した私たちがTVを点け、まず目に飛び込んできたのはロンドンの惨状でした。
自分の生まれた場所であるため、現地にはいくらかの友人もおり心配な夜を過ごしました。
今朝になり友人たちの無事がわかってほっとしましたが、ニュースを目にするたび心が痛みます。
うまく言葉になりませんが・・・
みんなが温かい気持ちで暮らせる世の中、世界になるよう、その日が1日も、一刻も早くやってくることを、心から願ってやみません。
by linglong | 2005-07-08 22:43 | 自言自語
<< 時間を止める 2012年夏には >>


英国生まれ、東京育ち。前世は台湾人(?)。十数年前にチャイニーズポップスにハマり、台北に留学。その後、米・シアトル~NYCへ渡りエンタ関係のビジネスを学ぶ。現在、0歳児育て満喫中。

by linglong